私は、小さい頃から暗記科目が苦手で、英単語や社会の人名・地名、歴史の年代などを覚えることに苦手意識があった。出来事を関連づけずに丸暗記しようとしたからであろう。
反面、体験や経験を重ねて習得していく美術や音楽、体育、書道などの分野は好きで得意でもあった。
これらのこともあり、美術の授業では体験の中から自ら気づき、習得していくことができる手法を取り入れていきたいと考えてきたのである。
様々な体験を通じて、生徒が自分自身で表し方や技法を見つけ出せたと思えることが大切で、そのことが大きな自信となり、次へのやる気につながったり、技能の向上や心情の充実に結びついたりしていくと考える。
また、それらの気持ちを起こさせるためには、指導者がじっくりと待ってやることが最も重要であろう。支援とは耐えることだといっても過言ではないと思う。
すぐに答えを教えないで、自分で見つけようという気持ちを起こさせることは、直接教えることの何倍も根気がいることである。
「学び」は、生徒自身の問題であり、指導者は学問や芸術という旅の案内人といえるであろう。創造の過程は、人生そのものであり、自己克服の過程ともいえる。
ここでは、様々な技法を用いた「CDジャケットの制作」を取り上げてそのことを考えてみたい。
題材名「CDジャケットの制作」
制作手順
① 12㎝×12㎝と12㎝×15㎝の画用紙を1枚ずつ用意する。
② CDにしたいテーマを決め、それに関係する絵や写真を集める。
③ スパッタリングや墨流しなどでできた模様を背景などに生かして使う。
④ 絵や文字を模写・転写・コピーして貼る。
この題材では、「実際に使えるもの、使いたいもの」という目標を立てている。自分で実際に使っている姿をイメージすることによって、普段の生活に結びついた美術を意識させたいと考えたのである。
スパッタリングや墨流しなどの技法によってできた模様を、背景やコラージュの素材として用いる。写実的な描写力の不足による苦手意識を、一時的に解放することが目的である。
さらに、素材として用いる人物などの写真や絵についても、コピー機で拡大縮小したり、それらをトレースしたりしてもよいことにした。
全作品100点を超えるCDジャケットの、表と裏の両面が見られるような展示方法を考えた。
教室後部の壁面前にクリップを通したワイヤーを数本張り、作品をぶら下げて展示した。
なるべく多くの人が用いた技法やアイディアを共有し合えるように、全員の作品を展示することにしたのである。